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「僕の町の戦争と平和」番外詩編 [詩]

「僕の町の戦争と平和」番外詩編 志田寿人著

●祭り

透明な空に浸して
青く染め上げた繻子(しゅす)の布
白色チョークが半纏(はんてん)を描き
母が夜なべして縫い上げたのは
四歳の僕のための晴れ着だ
右袖を下左袖を上に羽織った
背には朱色の祭大紋
遠雷のように呼ぶ太鼓の音に誘われて
木戸を開ければもうそこには待ちかねた人々の群
そうだ,今日は年に一度の祭り
錆びついた心の汚れを洗い流し
逆上した大義の換わりに
この世の生気を取り戻す日だ

ああ,それにしてもこの貧しさはどうだろう

地上にしがみつく平屋の家々を覆うのは
そっくり返った灰色の板切れ
死んだ魚の鱗はやがて冷たい北風に引きはがされて
砂塵が渦巻く通りを転げまわるに違いない
わっしょい,わっしょいの掛け声と共に社を出た神輿は
数十軒の氏子を回るが,早くも担ぎ手達の声はかすれ
神輿を担ぐ行列の男達はやかんから渇きを潤す
それでも神輿の担ぎ棒に結ばれた赤い紐には
無数の子供たちの手,掛け声の響きを受けて揺れる
やがて神輿は800戸の町内の端,
緩やかな坂を上ると大通り中に消えた

祭り半纏サテン.jpeg

タグ:祭り神輿
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