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●フクシマ原発クライシス(Apr 17,2011);②ダモクレスの剣 [クライシス]

cherenkov-radiatio.jpeg
アイダホ国立研究所新型実験炉;チェレンコフ効果で光る炉心(ウィキペディアより)

▲安定と準安定
前回4月3日のコメントから早くも2週間以上が経過した.1~3号機は
一種の準安定状態に有り,危機的状態からは脱したかに見える.
原子炉圧力容器,格納容器が示す温度,圧力,水位のいずれも大きな
変動を示していない.

http://atmc.jp/plant/container/

1号機格納容器への窒素ガス導入も6日には開始,7日午前1時半には
容器内圧力上昇,東電では作業が順調であるとの感触を得ていた.
米原子力規制委員会(the Nuclear Regulatory Commission: NRC)ヤツコ委員長
(Gregory B. Jaczko)は今の状態を称してstableではないがstaticであると
特徴づけている(4月12日).これはなかなか穿った見方ではある.stableは文字
通り安定であるがstaticは動きのない状態を意味しているのであろう.安定と違って
ちょっとしたことで危機にも簡単に戻りうるのだ.不安材料はいくらでもある.例えば
窒素ガス注入はその後順調に推移しているかというと,12日正午現在で格納
容器内圧力は1.95気圧,前日注入時点の圧と大差ない.つまり窒素ガスは
容器から漏れ出て,水素を一定量以上は追い出せないでいる.

▲膨大な注水のジレンマ
今の準安定状態というのは,通常の冷却系を使用できないために工夫された
間に合わせ的緊急策で,かろうじて保たれていることを忘れないようにする
必要がある.循環冷却系なしの水の注入は原子炉本体だけではない.1~4号機
燃料プールへの積算放水量は7,500トン,ドラム缶にして4万本分である(15日,東電).
この想像を絶する膨大な水の一部は放射性物質を燃料から洗い流して,コンクリート
被覆金属をすり抜け,あらゆる間隙をぬって土中に滲みこんで行く.これは推察であるが
発電所建造物,敷地の総てに汚染物質が吸着し,薄っすらと薄層を形成している
可能性すらある.なぜか.建屋の強烈な爆発を思い出してほしい.ビデオには空気中高く
吹き飛んでいく無数の破片が映し出されている.これらが何を含んでいるのか,
一度として確たる事実の分析が発表されただろうか.

▲複数の対応
要するに安定は月単位の時間の先に希望としてかすかに輝いているのだ.
その具体的な方策については,高濃度汚染環境下での作業効率を考え,
別の場所で冷却系を組み立てて炉に接続する方が現実的だとする提案が
出されている.今有る冷却系に拘れば,それが使用不可能となった時には
とりかえしのつかない遅れをとることになるだろう.決断というよりは複数の対策を
並行してすすめる,その姿が見えないことに苛立っているのは僕だけでは
ないはずだ.事故への対応だけではない.事故の分析もまた依然として初歩的
で心もとない.現在は過去の積み重ねの上にある.すでに過ぎてしまった
出来事の分析を解決済みとすれば,現状把握を誤ることとならないのだろうか.

▲水素爆発と別の推論
建屋の水素爆発についての定説に,前記ヤツコ委員長は米国上院の委員会で
別の可能性を提起した(4月12日付NT記事).

http://www.nytimes.com/2011/04/13/world/asia/13safety.html?_r=1&ref=asia

爆発を引き起こした水素の発生源に関して,従来の見解は圧力容器中で
水位が長時間低下,灼熱の高温燃料棒周囲でジルコニウム被覆と水蒸気が
反応し大量の水素が発生して格納容器の圧力が急上昇,これを外部に逃す
処理中に水素が建屋に充満爆発したと考えられている.前回ブログでもこの
見解を踏まえて爆発に言及した.しかしヤツコ委員長の新提起では水素は
燃料プール由来だという.当然これには東電や保安院側の反論が出されて
然るべきだと思うが,残念ながら筆者の検索には今のところ発見できていない.
問題はヤツコ委員長提起の根拠となっている証拠が何かということである.
そもそも燃料プールの経緯については謎が多すぎる.4号機燃料プールなど
使用済み燃料783本に加えて使用されていた燃料棒548本が保管されて
いたのであるから,「使用済み」燃料プールというのは重要性を低めるレトリック
なのだ.プールの容量は1425立方メートルで2,3号機と同じであるのに対して
発熱量は2,3号機の5~10倍(200万㌔カロリー/時)にも達する.これが
冷却系停止状態で新規の水の注入が無ければ,一日程度で沸騰が始まる
ことになるだろう.

▲情報の量と質
正確で広範な情報を求める国内外の世論に対して,政府は常に「透明性」
について万全を期してきたと繰り返している.情報が足りないとする声と,
もはや公開すべき手持ちの秘密は無いとする主張とのずれはどこから来る
のだろうか.今ある状況で得られるはずだと判断されるデータの質がこの程度
かという失望が背後には有る.データを得るのが困難なら,その困難への説明
をも加えなければ失望は増すばかりだろう.今ある貴重なstatic状態を生かし,
安定を獲得できると思える道筋を示してほしい.
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