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無機質に彩られることへの怖れとあこがれと [作曲]

   

 人類が完全にこの地上からいなくなったらどうなるのか,この問いかけの背景には深刻な地球環境の変動があるにちがいない.人類生存の永続性に関する疑問はかっては核戦争の勃発で有った.この問いかけそのものは,原因を不問にすれば今を間接的に理解する一種の思考実験となりうる.事実,来春早川書房より「私たちのいない世界」(The world without us, by Alan Weisman)が刊行される予定だという.刊行まで待てない方はインタビュー記事が”日経サイエンス,2007年11月号に掲載されているので,それが参考になるだろう.維持管理の努力は目立たない仕事なので普段はその重要性をそれほど意識していないが,ニューヨークの摩天楼ビルはわずか数十年で倒壊することは何が重要かを考えるヒントを含んでいるに違いない.人が手を入れることの無くなった道路には亀裂が入り,2~4年後には雑草で覆われやがては壊滅する.
 これほど大規模な思考実験でなくとも我々の周囲には崩壊の芽がいたるところにころがっている.人の環境への介入のマイナス面ばかりが強調されているが,根こそぎ住人が住処を後にした村崩壊の速さは想像以上のものがある.廃墟には繁殖力が旺盛で強靭なウルシやススキ,ヨモギ,クズが繁茂し,ぶ厚い緑の壁は決して野生動物の天国にはなっていない.僕の工房の近くにも耕作を放棄した放置田畑が無数に有るが,年一度の草刈や除草もしないところは身の丈を越えるようなススキの壁が感傷的緑信仰を哄笑しているようである.
 しかし,さらにつっこんでアナーキーな生命の饗宴が終わったところで生命の終焉のイメージはどうなるのだろうか.少なからぬ植物や動物がその一生を終え,落日の冬景色の中で生命の衰えや総てと言わないまでも生命の消滅を目にすることに,かすかな恐怖の匂い嗅ぎ取らない者がいるのだろうか.生命もまた無機質に還元されることへの不断の抵抗によってしか維持されないことが事実として有るとすれば,この怖れを理解することは難しいことではない,困難は母なる物質の世界にすら,それこそ微々たる兆候のような茫漠たるものかもしれないにしても強烈な魅力を我々が感じていることである.無機質への関心はどこか巨大な物質世界の闇の中に広がっていて,我々の精神世界の手ごわさを象徴しているかのようである.

 写真はニューメキシコの砂漠で何年か前撮ったものである.今回の曲はそんなことを考えながら作ったがなぜか,結構テンポの速い激しい曲になってしまった.不思議!

 

 

 

 

 


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エア

想像しにくいですが、膨張、収縮、爆発の繰り返しの
ような気がします。
by エア (2007-11-14 13:38) 

symplexus

>エアさん
 実は僕も良く分からなくて,後からこの曲を聴きこんでいるのです.
よく日没をテーマにした環境音楽などは,鐘の音などを入れていやがうえにも静けさを強調しますがそれとずれた感覚に成る時があるのです.
生命を拒絶する暴力的な荒々しさというのか.宇宙の現実はまさに
エアさんがおっしゃる様に,想像を絶する激変の世界ですね.
by symplexus (2007-11-14 19:36) 

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